File No.20 「Whirlpool(ワールプール)」
ワールプールっていう言葉を聞いたことがありますか?
これは、ビールの仕込み中盤、麦汁を煮沸したあと、【火を止めてからホップを投入する工程】のことです。
ここで投入されるホップは、「香りづけ」が主な目的です。
高温だと苦味に変わるホップの成分を、温度を少し下げた“余熱”でじわっと抽出するという工程です。
温度帯はだいたい85〜95℃前後。
この温度帯にホップを入れる事で
• 苦味は控えめ(IBUはほぼ上がらない)
• しっかりした香り
• 柔らかくてジューシーな印象
につながる重要な工程なのです。
「ワールプール」の“ワール”は【渦】。
渦って何よ、って感じですが、実際にこの工程では、タンクの中では渦巻きを起こしているんです。
何のため?
結構強めの渦による遠心力で、ホップのカスやタンパク質(トラブ)を中央に集めています。数分〜十数分放置すると、中心に“おり”が溜まり、外側がクリアになります。あとは、透明な麦汁だけを取り出して、冷却→発酵へと移行していくわけです。
つまりこれは、「香りを入れつつ、不純物を排除して、クリアにする」という、めちゃくちゃ重要な工程なんですね。
ここでは、アロマ特化型ホップか、Dual Purpose Hop(デュアルパーパスホップ)といって苦味にもアロマにも使えるホップが使用されます。
アロマホップの代表格は、
Amarillo、El Dorado、Motuekaなどです。
デュアルパーパスホップは
Citra、Mosaic、Cascade、Chinookなど多数あります。
この辺の「揮発性の香り」を引き出すには、
煮沸じゃ強すぎる、でもドライホッピングでは少し物足りないっていう絶妙なゾーンが、ワールプール。クリア系のビールの香りのベースは、ここでほとんど決まると言っても過言ではありません。
ほんとざっくりいうと
「松」「ダンク」「草」「柑橘の皮」などは、だいたいこの工程で造られます。
ドライホップ隆盛の時代、「香り=ドライホップ」と思われがちですが、『香りの土台』はこのワールプールで作られています。
ホップをどう使うか、いつ使うかで、ビールの表情はまるで変わってきます。
私の造るCBPのビールは、この工程を“主戦場”にしています。もちろんドライホップも使いますがあくまで「補足程度」。
この工程の味わいを、渦巻きを想像しながら飲むのも粋なのではないでしょうか。