「クラフトビールって、なぜこんなに高いんですか?」
お客様からたまにそう尋ねられます。もちろん悪意ではなく、「高くても美味しいですね」と言っていただいた上での質問です。
しかし実際には、「高くしている」のではなく、「安くできない構造の中でやっている」というのが実情です。
今日は少し、クラフトビールを取り巻く制度の話をしてみようと思います。
日本では、長い間「麦芽比率50%以上」「副原料は米・とうもろこし・でん粉・糖類・カラメル・苦味料・着色料のみ」という制限がビールに課せられてきました。
2018年の法改正により、果実・スパイス・ハーブ・花なども使用可能となりましたが、現場の実感としては「ようやく少し緩和された」程度です。
ビールを造る際、ホップやモルトだけでなく副原料を使うスタイルが一般的になってきている今、「これは使っても大丈夫か?」と毎回確認しながら仕込むというのは、決して自由とは言えません。
日本の酒税制度において、ビールの税率は350mlあたり77円(発泡酒も同額)です。
これは以下のように、他の酒類と比較しても高水準です。
ビール・発泡酒・約77円
チューハイ(8%程度)約28円
ワイン・約28円
清酒・約35円
焼酎(25度)約45円
ウイスキー(40度)約140円
ビールだけが高いというのはそうですが、小規模ブルワリーにとっては“仕入れも醸造コストも高いのに、税率だけは大手と同じ”というところが、クラフトビールが「高い」理由の大きな理由のひとつです。
そもそも、原料がほぼ全て輸入という点が一番大きなところですし、使っている量も大手のものとは比べようがないほど使っているので、仕方ありません。
日本でビールを製造して販売するには、国税庁からの酒類製造免許が必要です。
このうち、ビール造りに関係する主な免許は以下の2つです。
◉ ビール製造免許
• 必要最低製造量:年間60kl(60,000リットル)
• 麦芽比率50%以上、副原料制限あり
• 名称に「ビール」と表記可
• 一部の素材は使用不可、自由度が低い
◉ 発泡酒製造免許
• 必要最低製造量:年間6kl(6,000リットル)
• 麦芽比率50%未満、もしくは副原料が制限を超えるもの
• ラベルには「発泡酒」と表示義務あり
現在、多くの小規模ブルワリーはこの発泡酒免許で製造しています
「ビール免許」は大規模製造が前提で、自由度は低い一方で、「発泡酒免許」は比較的取得しやすく、使用素材も柔軟ですが、「ビール」と名乗ることができません。
つまり、味も造りもビールなのに「発泡酒」と表示しなければならない。これが、小規模ブルワリーが最初に直面する“名称の壁”です。
もう一つ、私が個人的に違和感を持っているのが、アルコール度数表示のルールです。
日本では、アルコール度数は1%未満切り上げで0.5%刻みと定められており、たとえば「7.7%」のビールは「8%」としか表示できません。
これは「消費者にわかりやすく」するための措置とされていますが、クラフトビールの世界では0.1%の違いが味わいや飲み心地に影響することもあり、本来の度数を正確に書けない不自由さは、飲み手と造り手の両方にとって不本意な部分だと感じます。
とまぁ、こんな感じでいろいろ「制約」がありますが、【金額に見合う】美味しいビールを造れば良いだけの話ですね。