(2)集中治療室
CTを終え何階かもわからない病棟に。なにやらナースステーションのようなところに連れてこられた。
廊下??
急なことなので、どこでも良い。
パーテーションで仕切られたのでもはや個室だ。
それにしても看護師さんがひっきりなしに行き交う。
やはり「廊下」だけのことはある。
入れ替わり立ち替わり看護師さんが訪れ、体を触ったり声をかけたりしてくれる。
一瞬5人の女性看護師に囲まれた時などは「ここはハーレムか」と思い、私の幸福度は絶頂に達した。
だが、せっかく触られても全く感触がないことに気づく。
そして左手が自由に動かない。
これは大変な事態に陥ったと、少し冷静になる。
目で追わないと左手がどこにあるのかさえ分からない。
絶望に近い焦りを覚えたが、とりあえず動かしてみることで少しでも改善を試みるが、やはり思うように動かない。
しかし、まだ初日。そのうち回復するだろうくらいに思うようにして、少し休むことにした。
昼過ぎくらいだろうか、仕事を急遽取りやめて病院に駆けつけてくれた妻がやってきた。
「急だから仕方ないよね」と、やはり【廊下】を気にしているようだ。
「まあ、どこでもいいよ」と答えた。
妻には、やはり申し訳ない気持ちだった。苦労をかけてしまうんじゃ?という負い目を感じた。
しかし、自分の力でどうにかなる話ではないのだ。運を天に任せるほかない。
病院のことや病状のこと、これからの治療についてを一通り説明をうけた。
なるようにしかならないと思うから、話半分で聞いていた。「まぁ、妻が聞いてくれているだろう」
この時、ようやく私の手元に携帯がきた。
使っても良いそうだ。良かった。
問題はWi-Fiだが、設定を開くとリストに「Tokushukai」というのが出てきた。そして当たり前のように求められたパスコード・・・・
私はテキトーに入力してみた。
すると、一発でログインできた。
私はまるでハッカーになったかのようだった。「俺は天才か?」
だが、幸運はこればかりではない。
経過ということでもう一度うけたCTでも出血の拡大は無く、翌日には一般病棟に移れるとのこと。
「一般病棟ですか???」と問うと、看護師さんは言った。
「はい、ここは集中治療室なので、一般病棟に移動できることになりました。良かったですね」
今わかった。ここは「廊下」ではなく、集中治療室だったことを・・・・
つづく