〜第9話 ちきゅうブルーイング・プロジェクト
夜も深まり、IPA本舗の店内は穏やかな空気に包まれていた。カウンター席の一角、青山が静かにグラスを磨いていると、扉のベルが鳴った。見慣れない若い男性が店内に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ。お好きなビールのスタイルなどありますか?」
青山は柔らかい笑顔で声をかけた。
👿いや〜、最初から好みのスタイルとか聞かんだろ〜💦
「いや、クラフトビールはあまり詳しくなくて…。でも、ここでしか飲めないビールがあるって聞いて、気になって。」
「それでしたら、うちのオリジナルビールをご紹介しましょう。」
青山はカウンター下からメニューを取り出し、そっと広げた。
「こちらがChikyu Brewing Projectのビールです。」
👿突然言われてもわからないですよね〜💦 しかし、何というビールを出したかくらいは伝えた方がいいと思うぞ(笑)
男性は興味深そうにメニューを覗き込む。
「Chikyu Brewing Projectって…どうしてこれを作るようになったんですか?」
👿それ、聞く?初っ端から・・・
青山は一瞬手を止め、懐かしむように目を細めた。
「実は…すべての始まりは、アメリカのブルワリー『Knee Deep Brewing』が作るSimtra Triple IPAが、しばらく日本に入荷しなくなったことがきっかけだったんです。」
「Simtraってそんなに人気があるんですか?」
👿「入荷しない🟰人気」ってならなくない?
「ええ。当店でも非常に人気が高くて、お客様からの要望が多かったんです。ですが、輸入が止まってしまって…そこで、いっそのこと、私自身が似たようなビールを作ろうと思い立ちました。」
青山はグラスに琥珀色のビールを丁寧に注ぎながら続けた。
「でも、私は醸造家ではありません。そこで、協力してくれるブルワリーを探していたところ、山形の醸造所とひょんなことから知り合うことができたんです。」
「山形のブルワリーですか?」
「はい。そこには腕の立つブルワーがいましてね。私の考えたレシピを渡して、作ってもらったのが最初の一杯――**Fossa Magna(フォッサマグナ)**という、アルコール度数11%のトリプルIPAです。」
「11%!? すごいですね…。」
「Simtraを模したこのビールは、非常にクオリティが高くて、自信を持って提供できるものでした。そこから私は、他にもさまざまなビールを作ってみたいと思うようになり、月に1回のペースで次々と新しいビールを作っていきました。」
青山はメニューを指でなぞりながら、ゆっくりと説明を始めた。
「まずは、Fossa Magna(Triple IPA)。最初に作ったビールです。11%のトリプルIPAで、Simtraのような濃厚なホップ感としっかりしたボディを再現しました。名前は、日本列島を二分する大地溝帯“フォッサマグナ”から取りました。地殻変動のようなインパクトをビールで表現しています。
つぎにCoriolis Force というDouble IPAをつくり、それからだいたい1か月に1回のペースで新作を出しています。」
「今はFallaron Plateという IPAを仕込み中です。地殻プレートのひとつ“ファラロンプレート”にちなんだ名で、地球のダイナミズムをイメージした力強いIPAになる予定です。」
男性は青山の丁寧な説明に耳を傾けながら、感心したように息を吐いた。
「それぞれに、こんなに深い意味とこだわりが詰まっているでしょうね…。青山さん、ビールに対する情熱が本当にすごいですね。」
👿ビールに対する情熱が無ければ、やらないですよね〜💦
まぁ、儲けたいだけのしょーもないビアバーもいっぱいありますが・・・💦
青山は静かに微笑んだ。
「ありがとうございます。私は、ただ美味しいビールを届けたい。それだけなんです。そして、そのビールに込めた物語も一緒に味わってもらえたら、これほど嬉しいことはありません。」
グラスの中で、琥珀色のビールが静かに揺れていた。
⭐️
青山がカウンター越しに客と穏やかに会話をしていたその時、店の電話が突然鳴り響いた。静かな店内に、電子音が少しだけ場違いに響く。
「…失礼します。」
青山は手早くグラスを拭き終えると、カウンターの奥にある電話へと歩み寄り、受話器を耳に当てた。
「はい、IPA本舗でございます。」
電話の向こうからは、落ち着いた低い声が響いた。
『ああ、青山さんですね。仙台でクラフトビールの店をされている。私、佐川と申します。東京で投資事業をしておりまして…先日、お電話させていただいた者です。』
👿なんか、上からっぽく感じるの私だけ?
青山の表情が一瞬硬くなる。先日、突然かかってきた東京の投資家からの連絡。ビールの醸造事業への出資話――どこか現実感のない、しかし無視できない話だった。
「…ええ、覚えています。どうされましたか?」
『ぜひ、直接お会いしてお話しできればと思いましてね。明日、仙台に伺おうと考えています。お時間をいただけませんか?』
青山はふと時計を見る。時刻はすでに夜の9時を過ぎていた。明日の営業準備や仕込みのことが頭をよぎる。
「そうですね…午後は仕込みがあるので難しいですが、午前中でしたらお時間をお取りできます。」
『午前中、了解しました。では、明日10時頃、お店に伺ってもよろしいでしょうか?』
「はい、それで結構です。」
『ありがとうございます。それでは、明日伺います。失礼いたします。』
「…失礼いたします。」
青山は静かに受話器を置いた。
しばらく無言のまま、電話機を見つめる。どこか落ち着かない気持ちが胸の奥に広がっていた。
(…本当に会う必要があるのか? けど、話を聞いてみなければ分からないか。)
ふと視線を店内に戻すと、相変わらず客たちはビール談義に花を咲かせていた。先ほどまでの心地よい雰囲気に、わずかに入り込んだ現実の重み。
👿あ! お客さん他にも居たのね〜(笑) 静かな店内に電話の音が響いたんじゃなかったっけ?
「さて…」
青山は深く息をつくと、グラスを手に取り、再び客たちの輪の中へと戻っていった。
【登場人物】
青山・・・IPA本舗店主
男性客・・・詳細不詳
佐川誠・・・投資家
続きはまた今度