〜第8話
IPA本舗の扉が開き、冬の冷たい風が店内に吹き込んだ。開店直後の15時。青山はカウンターの奥で、静かにグラスを並べていた。カウンターの向こうでは沖、佐々木夫妻、裕子、そして隼人が、昨夜の話で盛り上がっている。
「青山さん、ブルワリーやるなら名前はどうするんですか?」沖が冗談交じりに言う。
「Chikyu Brewingはそのままでいいんじゃない?でも“IPA本舗ブルワリー”ってのもアリだよね!」裕子が笑顔で提案する。
👿「IPA本舗ブルワリー」って・・・何もアリじゃない💦
佐々木も頷きながら、「もうクラウドファンディングでもやりますか!」と楽しそうに言った。
👿出資してもらえるのになんでクラファンするの??
青山は静かに手を止め、グラスを磨く手を膝の上で組んだ。
「おい、みんな。」
その声に店内の空気がふっと静まった。
「まずは、今仕込んできたビールを最高の状態で出すことが先だ。」
青山の言葉は、静かだが芯のあるものだった。
「Fallaron Plateは、俺がこれまで作ったビールの中でも特別な一本だ。West Coast Revelationを飲んだとき、これを越えるものを作りたいと思った。やっとそのスタートラインに立ったんだ。」
👿別に、これが特別な一本ではないんだけふぉね〜💦
青山は目の前のグラスを見つめながら、ゆっくりと言葉を続けた。
「大きな設備や新しい挑戦も大事かもしれない。でも、今は目の前のビールに集中する。雑念を入れたくない。」
沖が苦笑しながら、「真面目かよ」とつぶやいたが、どこか納得したようだった。
「でもさ、青山さん。」裕子が静かに言う。
「そのビール、私たちも一緒に楽しみにしてるから。焦らず、でも前に進んでよ。」
青山は小さく笑って頷いた。
「もちろんだ。みんなに飲んでもらうために作ってるんだ。だから、最高の状態で出したい。」
隼人がぽつりとつぶやいた。
「きっと、Fallaron Plateを飲んだら、ブルワリーの話も自然と進むかもしれませんね。」
青山はその言葉に少し目を細めた。
「まずはそのときだな。」
カウンターの奥で、青山は仕込みのノートを開き、Fallaron Plateの熟成スケジュールを確認する。頭の中には、麦芽の甘みとホップの苦味が絡み合う完璧な一杯のイメージがあった。
👿だからさぁ〜、そこは昨日麦汁飲んで確認したから!
それに、ノート取り出さんでもスケジュールくらい頭に入っとるわ💦
ざわついていた店内は、どこか落ち着いた雰囲気に変わっていった。ブルワリーの話はまたの機会。今は、最高のビールを造り、届けること。それが青山のすべてだった。
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IPA本舗の扉が静かに開いた。冷たい風が一瞬店内に流れ込む。
「おっ、今日は賑やかだな。」
柔らかい声とともに現れたのは、「ゴトーのおじさん」こと後藤隆司。上品なコートに身を包み、穏やかな笑顔を浮かべた初老の紳士だ。月に二度ほど、ふらりと現れるその姿に、店内の常連たちが一斉に振り向いた。
「お、ゴトーさん!今日はまたどうしたんですか?」沖が声をかける。
「いやいや、ちょっと自慢しに来たんだよ。」後藤はにやりと笑って、上着を脱ぎながらカウンターへと歩み寄る。
「自慢?…なんの?」裕子がグラス越しに首をかしげた。
「この前のシニアゴルフ大会、優勝しちゃってねぇ!」
「ええっ!? マジですか!?」沖が身を乗り出す。
「いやぁ、まぐれだよまぐれ。風が味方してくれたんだ。」そう言いながらも、後藤の顔はどこか誇らしげだった。
青山もカウンター越しに微笑みながら、「それはおめでとうございます。お祝いに一杯どうですか?」と声をかけた。
👿「お祝いに一杯」?? 奢るつもり??(笑)
「それは嬉しいねぇ。じゃあ、苦みが効いたやつを頼もうかな。」
「Challenger Deepでいきましょうか。」
👿「苦味が効いたやつ」でChallenger Deepは勧めません💦
「うん、それがいい。」
青山が手際よくビールを注ぐ間、後藤は店内を見回した。
「それにしても、ここも随分と賑やかだな。何か良い話でも?」
沖がにやにやしながら、「実は青山さんがブルワリーやるかもって話で盛り上がってたんですよ」と言うと、後藤は目を丸くした。
「おぉ、そりゃまた大きな話だな。でも、青山さんならやれるんじゃないか?」
青山はグラスを差し出しながら、静かに微笑んだ。
「ありがとうございます。でも、まだまだ目の前のビールに集中しますよ。」
後藤はグラスを受け取り、一口含んで満足そうに頷いた。
「この一杯を超えるものができたら、そのときは俺も出資者のひとりに加えてくれよ。」
👿ごめんなさい🙏 お断りさせていただきます(笑)
店内に笑いが広がった。
「じゃあ、まずは優勝のお祝いに乾杯だな!」沖が声を上げ、皆がグラスを掲げた。
「乾杯!」
IPA本舗の温かな空気の中で、ビールの泡が静かに弾けた。
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IPA本舗の扉が再び開いた。冷たい風とともに、背筋の伸びたスーツ姿の男性が姿を現した。後ろには少し緊張した様子の若い男女が2人続いている。
「おや、パク先生じゃないですか!」沖が声をかけた。
「おぉ、久しぶりですね。」青山もカウンター越しに微笑む。
「今日は学生を連れてきました。ビールの勉強がしたいと言うのでね。」パク・ジフン教授は穏やかな笑顔でそう言った。仙台の大学で物理学を教える韓国人教授で、ビールにも深い造詣を持つ人物だ。
「紹介します。こちらはキム・ソヨン、こっちはイ・ジュノ。2人とも私の研究室の学生です。」
👿「男女」って言ってたけど、どっちが男性? しかも二人とも韓国人って💦
緊張した面持ちで、2人は軽く会釈をした。
「ここのオーナーの青山さんは、ビールの神様のような人だよ。何でも聞いて間違いない。」パクが笑いながらそう言うと、店内の客たちもどっと笑った。
「神様は言い過ぎですよ。」青山は苦笑しながらも、グラスを磨く手を止めて学生たちに向き直った。
「せっかくですから、何か気になることがあれば聞いてください。」
ソヨンが少し戸惑いながらも、勇気を出して口を開いた。
「あの…IPAって、どんなビールなんですか?」
青山はグラスをカウンターに置き、ゆっくりと頷いた。
「IPAは“India Pale Ale”の略です。もともとはイギリスからインドへビールを輸出する際、腐敗を防ぐためにホップをたくさん使ったのが始まりと言われています。今では、ホップの香りや苦味を楽しむビールとして世界中で親しまれていますよ。」
👿でた!都市伝説! 「腐敗を防ぐためにホップを増やした」わけではありません。というか、インドへの輸出開始の時点でホップは増やしてません。そこら辺の情報はお店で詳しくお話しします。AIくん的には流布してる情報を拾ったんでしょうが・・・
リテラシーって大事です。
ジュノが続けて尋ねた。
「じゃあ、ビールって苦いのが普通なんですか? 苦いのが苦手な人はどうすればいいんでしょうか?」
👿IPA🟰苦いって・・・・言葉がありません。
青山はにっこりと笑った。
「ビールにもいろんなスタイルがあります。苦味が強いものもあれば、フルーティで飲みやすいものもある。無理に苦いビールを飲む必要はありません。自分に合ったビールを探すのも楽しみのひとつです。」
その言葉に、後ろで聞いていた裕子が頷いた。
「最初は私も苦いのが苦手だったけど、青山さんにいろいろ教えてもらって、今はIPAが大好きになったんですよ。」
「そうそう、ここに来れば自分に合うビールが見つかるってもんだ。」沖も笑いながら加わる。
後藤もグラスを傾けながら言った。
「苦いビールを作る青山さんもいいが、うまいビールを選ばせる青山さんも“神様”だからな。」
👿青山さん🟰苦いビールを作る人になってません?
青山は苦笑しながらも、嬉しそうに学生たちに声をかけた。
「せっかくだから、一緒にビールを飲んでみますか? もちろん無理にとは言わないけど。」
ソヨンとジュノは顔を見合わせ、少しだけ緊張をほぐして頷いた。
「じゃあ、軽めのIPAから始めましょうか。」
👿苦いビールが嫌いなのに、軽いIPAを勧めたりはしませんよ。軽いビールは苦味が際立つ可能性があるので・・・
そう言って青山はタップに手を伸ばした。店内には和やかな空気が流れ、ビールの香りとともに新たな出会いの輪が広がっていく。
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青山が慎重に注いだグラスが、カウンターに並んだ。淡い琥珀色の液体に、ふわりと立ち上るホップの香り。ソヨンとジュノは、おそるおそるグラスを手に取った。
「じゃあ、乾杯しましょうか。」パク教授がにっこりと微笑み、グラスを軽く掲げた。
「か、乾杯!」
2人は少し緊張しながらも、グラスを口元に運んだ。
……ゴクリ。
その瞬間、ソヨンの目が大きく見開かれた。ジュノも一瞬、動きを止めた。
「えっ…なにこれ、すごくおいしい!」
ソヨンが思わず声を上げた。ジュノも驚いたようにグラスを見つめる。
「苦いかと思ったけど…全然違う。フルーティーで、香りもいいし、すごく飲みやすい!」
その反応に、客たちはどっと笑い声をあげた。
「そうだろう、そうだろう!」沖が嬉しそうに身を乗り出す。
「最初はみんなそう言うんだよ!」裕子も笑いながら頷いた。
後藤はグラスを軽く揺らしながら言った。
「これが青山さんの選んだIPAだよ。間違いないだろ?」
パク教授も満足げに微笑み、学生たちに言った。
「ほら、言った通りだろう? 青山さんは、ビールの神様だから。」
「い、いや、神様はやめてくださいよ。」青山は照れくさそうに笑いながら、タオルで手を拭いた。
ソヨンはもう一口飲み、目を輝かせた。
「ビールって、こんなに香りがいいんですね…!もっと重たくて、苦いだけだと思ってました。」
👿それを言うなら「軽くて苦くて雑草の香り」と言って欲しい🤭
ジュノも頷きながらグラスを見つめる。
「これは…なんていうビールなんですか?」
「これはね、Chikyu Brewing Projectの『Challenger Deep』だよ。」青山が答えた。
👿さっき【軽めのIPA】って言ってたよね〜‼️
どこがやねん!
「地球の一番深い場所、マリアナ海溝の最深部が名前の由来なんだ。」
「名前までかっこいい…!」ソヨンは感心したようにグラスを見つめた。
「でも、青山さんが仕込んできた新作はこれじゃないんですよね?」ジュノが興味深そうに尋ねた。
「ああ、そうだな。昨日、山形で仕込んできたのはFallaron Plateっていうビールだ。」青山の表情が少し引き締まった。
「もっとホップのキャラクターが前面に出た、ダブルIPAになる予定だ。あれは…ちょっと特別な思いがあって作ったビールなんだ。」
👿ビギナーにダブルIPAは通じないよぉ〜
青山の言葉に、店内の空気がふっと落ち着く。
「どんなビールになるんですか?」ジュノが静かに聞いた。
青山はグラスを見つめながら、少しだけ笑った。
「最高のビールだよ。絶対に飲んでほしい。」
👿「どんなビール」って聞かれてるのに「最高のビール」って・・・答えになってないよぉ〜
その言葉に、店内の客たちは静かに頷いた。
「その日が楽しみですね!」ソヨンの言葉に、青山は静かにグラスを磨きながら答えた。
「ああ、楽しみにしててくれ。」
こうして、静かな夜に新たなビールの物語が、静かに動き出していた。
👿やっと終わった💦 ちょっと今回苦痛でした😫
【登場人物】
青山・・・IPA本舗店主
日下隼人・・・常連客/医師
菅原裕子・・・常連客/スーパー店員
パクジフン・・・常連客/大学教員
佐々木俊也・・・常連客/ビルオーナー(りさの夫)
佐々木りさ・・・常連客/花屋経営者(俊也の妻)
沖和幸・・・常連客/IT企業社員
後藤隆司・・・常連客/初老の紳士
キム・ソヨン、イ・ジュノ・・・客/学生
続きはまた今度