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IPA本舗
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AI小説「IPA本舗」第24話

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第24話「大地の誓い」

ある日、IPA本舗は静かだった。青山がカウンターを拭いていると、店のドアが開いた。入ってきたのは、見覚えのある女性だった。

「後藤さんの奥さん…?」

「…こんにちは、青山さん。」

彼女の表情を見た瞬間、青山は嫌な予感がした。

「…まさか。」

奥さんは静かに頷いた。「昨日の夜、後藤が亡くなりました。」

「え?」。青山は言葉を失った。

「最後は病院で静かに逝きました。でも、亡くなる前に…」

奥さんはバッグから一枚の紙を取り出し、そっと青山に差し出した。

「これを、あなたに託してほしいと言われました。」

青山は紙を受け取り、目を通した。

『自分が死んだら、青山さんに弔いのビールを造ってほしい。俺が愛したIPA本舗の味を、形に残してくれ。』

震える手で、後藤はそう書き残していた。

青山は深く息を吐いた。「…後藤さん、そんなことを。」

奥さんは微笑みながら言った。「あなたのビールを、本当に愛していました。最後まで、ここで飲んでいたビールの話をしていましたよ。」

「…ありがとう。」青山は静かに言った。

カウンターの奥に目をやると、後藤がいつも座っていた席が目に入った。何も言わずにそこに座って、じっくりとビールを味わう。そんな姿が思い出された。

「後藤さんが好きだったビール…」

青山は考え込んだ。

「レッドIPAだな。」

奥さんはそっと頷いた。「ええ。だから、どうかお願いします。」

青山は決意したように頷いた。「わかりました。必ず造ります。」

青山はIPA本舗を閉めた後、新工場へと向かった。

ジオフィジクス・ブルーイングの大規模な醸造設備とは別に、新工場には「実験用の少量醸造設備」が設置されていた。試験醸造や特別なレシピをテストするための小規模な設備だ。

今回は、この設備を使い、青山自身が醸造を行うことに決めた。

「後藤さんのためのビールだ。これは、俺が造らないと意味がない。」

フレッドやスタッフたちは、そんな青山の決意を理解し、静かに見守ることにした。

青山は、後藤が好んでいた深みのあるレッドIPAを目指し、レシピを組み立てた。

「モルトのコクとホップの香り、どちらも際立たせたい。だけど、甘さは抑えて、渋みのある仕上がりにする。」

マッシングが始まる。淡いアンバー色の麦汁がタンクの中に広がり、モルトの香りが工場内に立ち込めた。

「いい色だな。」青山は呟いた。

ボイルの段階では、ホップの投入タイミングに気を配った。最初にコロンバスを少量加え、苦味の基盤を作る。中盤にはシムコーとアマリロでフルーティな香りを演出。そして、最後にセンテニアルでバランスを取る。

「後藤さんなら、どの瞬間を楽しんだだろう。」

青山はそんなことを考えながら、ひとつひとつの工程を丁寧に進めた。

「今まで造ってきたどのビールよりも、気持ちが入るな。」

ボイルが終わり、麦汁が冷却され、発酵タンクに移された。最後にイーストを投入し、発酵の経過を待つ。

「…あとは、時間が答えを出してくれる。」

青山はタンクを軽く叩いた。

「頼んだぞ」

2週間後、青山はタンクからビールを取り出し、最初のテイスティングを行った。

グラスに注がれた液体は、美しい赤銅色。光に透かすと、深みのある琥珀色が見えた。

青山は静かにグラスを鼻に近づけた。

「…香りは、申し分ない。」

モルトの甘みとキャラメルのようなコク、そしてホップの柑橘と松の香りが絶妙に混ざり合っている。

ひと口飲んだ瞬間、青山の表情が変わった。

「…これだ。」

まさに、後藤が愛したレッドIPAの味だった。

青山は静かにグラスを置いた。

「後藤さん、できましたよ。」

「大地」と名付けられたビールはIPA本舗で限定提供することになった。

その日、後藤の奥さんも店にやってきた。

「…この色、とても綺麗ですね。」

「ええ。」青山は奥さんにグラスを手渡した。「後藤さんのために造りました。」

奥さんは静かにグラスを持ち上げ、一口飲んだ。そして、涙をこぼしながら微笑んだ。

「きっと、喜んでますね。」

店内では、常連たちも次々と「大地」をオーダーしていた。

「これは…すごい。」佐々木が感嘆の声を漏らす。「青山さんの気持ちが詰まったビールだ。」

隼人もグラスを傾け、「本当に後藤さんらしいビールですね。」と呟いた。

三原が「後藤さんに乾杯!」と声を上げると、店内の全員がグラスを掲げた。

「乾杯!」

「乾杯!!」

「後藤さん、ありがとう!!」

その夜、IPA本舗には、後藤がいた頃と変わらない賑やかな笑い声が響いていた。

青山は静かにカウンターに立ち、後藤がいつも座っていた席を見つめた。

「後藤さん…あんたのビール、みんなが笑顔で飲んでますよ。」

タップハンドルを握りしめながら、青山はそっと呟いた。

【登場人物】

青山・・・IPA本舗店主/ジオフィジクスブルーイング社長

後藤隆司・・・元常連客/逝去

後藤の妻

三原治・・・常連客/内装業社長

日下隼人・・・常連客/医師

佐々木俊也・・・常連客/ビルオーナー

続きはまた今度