第23話「醸造ミス」
12月。仙台の広瀬川沿いに、新たなジオフィジクス・ブルーイングの醸造所が完成した。ついに、本格的な大量生産が始まる。
フレッドと青山、そして新工場のスタッフたちは、最初の試験醸造のために準備を進めていた。
「最初の仕込みは『ちきゅう』でいく。」青山が決断した。「これを大量醸造で安定して造れるようになれば、今後の基準が決まる。」
フレッドも「間違いないな」と頷いた。「最も需要があり、飲みやすく、でもしっかりとジオフィジクスのスタイルを持っているビールだ。」
こうして、記念すべき新工場の初仕込みが始まった。
完璧な仕込み…のはずだった
マッシング、ロイターリング、そしてボイル工程まで、すべてが順調だった。麦汁は美しい黄金色をしており、ホップの香りも申し分ない。
「間違いなく、良い仕上がりだ。」フレッドは満足そうに頷いた。
「この設備、使いやすいな。」青山も、新しい醸造機材の精度の高さを実感していた。
冷却を終えた麦汁は、予定通り発酵タンクに移され、イーストを投入。すべては完璧だった。
しかし、仕込みから1週間後、異変が起きた。
「…フレッド、ちょっと来てくれ。」
発酵タンクのチェックをしていたスタッフが、顔をこわばらせながらフレッドを呼んだ。
フレッドが駆けつけると、タンクのサンプルを採取していたスタッフが、異様な表情をしている。
「匂いが…おかしいんです。」
フレッドは慎重にグラスを鼻に近づけた。
ツンとした酸っぱい香りが、鼻を突き刺した。
「…まさか。」
慌ててpH値を測定すると、通常よりも異常に低い数値を示していた。
「くそっ…!」フレッドが舌打ちをした。
雑菌の混入だ。
発酵が進むどころか、タンク内は完全に汚染されていた。
項垂れるフレッド、そして青山の言葉
フレッドは、タンクの前で拳を握りしめたまま動かなかった。
「俺としたことが…。」
視線は一点に固定され、表情には明らかなショックが浮かんでいる。
「何が原因だ…?仕込みの段階では完璧だった…。」
彼の声は震えていた。新しい設備での最初の仕込み。それが失敗に終わるという現実が、フレッドを苦しめていた。
そこへ青山が歩み寄り、タンクを見つめながら静かに言った。
「フレッド、こういう時こそ冷静になれ。」
「…でも、青山。これは俺の責任だ。初歩的なミスだ。」
「違うな。」青山は腕を組んで、真剣な表情で続けた。「これはお前だけの責任じゃない。新しい工場での試験醸造だ。むしろ、こういうトラブルは当然起こる。」
「でも、俺は…」
「まずは、原因を突き止めよう。 それが今やるべきことだ。」
フレッドは深く息を吐き、少しずつ落ち着きを取り戻した。「…わかった。やるしかないな。」
フレッド、青山、そして技術スタッフが総出で原因を探し始めた。
👿技術スタッフ??なんのこっちゃ💦
原材料のチェック、醸造工程の記録、発酵温度のデータ、すべてを見直していく。
👿明らかに発酵段階でしょう(笑)
「タンクの洗浄は、いつも通り完璧にやったはずだ。」
👿ほんと??そこが最も大きな原因じゃない?
「原材料も問題なかった。」
「でも、pH値が異常に低いってことは…何かしらの菌が繁殖した可能性が高い。」
徹底的な調査の結果、ある決定的な問題が判明した。
「…これだ。」
青山が指差したのは、タンクの冷却装置の排水ラインだった。
「ここ、ちゃんと排水されてなかったんじゃないか?」
👿冷却装置関連で雑菌は入らないぞ(笑)
フレッドが急いで確認すると、排水経路の一部に水が溜まっていた形跡があった。
「…つまり、この溜まった水に雑菌が発生して、それが発酵タンク内に混入した?」
青山は頷いた。「間違いない。冷却装置の排水ルートを完全に把握してなかった。新しい設備だからこそ、気付けなかったんだ。」
フレッドは悔しそうに頭をかいた。「くそ…確かに、ここは旧工場にはなかったシステムだった。」
「つまり、新工場の設備をまだ完全に理解できてなかったってことだな。」青山は納得したように言った。
フレッドはようやく、小さく笑った。「…なるほどな。新しい環境では、全部がゼロからのスタートってことか。」
「よし、次の仕込みでは絶対に同じミスはしない。」
フレッドはそう言うと、スタッフたちに洗浄工程の見直しを指示し、新たなチェック項目を追加した。
「でも、俺たちはまた一歩成長したってことだな。」青山はそう言って、フレッドの肩を叩いた。「失敗は貴重なデータだ。これを糧に、次こそ最高の『ちきゅう』を造ろう。」
「…ああ、今度こそ完璧に仕上げる。」
こうして、ジオフィジクス・ブルーイングの新工場での試験醸造は、想定外の失敗とともに終わった。だが、その経験が、次の成功へとつながる第一歩になったことは間違いない。
【登場人物】
青山・・・IPA本舗店主/ジオフィジクスブルーイング社長
フレッド・ジョンソン・・・ブルワー/ジオフィジクス醸造長
続きはまた今度